睦月のささやき

昨年中に新しく始めたことが、歌を歌うということだった。
コーラスでもなく、カラオケでもなく、一人で朗々と歌いたいという願いが心の奥底にあったようだ。

夏からレッスンに通い始めた。

今までに四曲歌った。

その一つがアルカデルトのアヴェマリア。
アルカデルトは16世紀の作曲家でフランスかイタリアか生まれははっきりしないが、たくさん作曲をしている。宗教曲以外のシャンソンも多く、とても人気が高くよく歌われていたという。彼が恋の歌として作ったものが、、
18世紀になってマリア讃歌に変えられ、今はこのほうがよく歌われている。
歌いやすいので私もこのアヴェマリアを最初に選んだ。

恥をかかなければうまくならない、とそそのかされ、人様の前で歌うつもりになったけど、自分のカフェだからやれること。

10月のばおばぶ誕生祭、12月のマリア祭、そしてクリスマス会と、お客様の前で歌うとなると、練習の熱心さが違ってくる。

二つ目のアヴェマリアはモーツアルトのアヴェマリア。
これはマリア賛歌の歌詞ではなくて、キリストの受難を歌っている。
彼の体が十字架上での磔刑の苦しみを受け、人のために命を捨て、わき腹から水と血が流れ出る、なんていうぎょっとする歌詞なんだけど、ラテン語だから聞いているほうはわからない。
メロディーはとても美しい。とてもとても美しい。

「アヴェマリアの中ではこれが一番美しい、これをへたくそに演奏したり歌ったりするのは許せない」と言っている人がいるという。私が歌っているときに来られなくてよかった!

三曲目はカッチーニのアヴェマリア。
これは今やかなり有名になっていると思う。10年以上前だと思うけど、レニングラードとかいう〔はっきりしないけど)戦争映画があって、その予告編を見たのだが、そのバックに流れていた、つまり残酷な戦闘場面のバックに、この世のものとは思えないほどの美しい声とメロディーが流れていたのだ。ええ~っ…これは何だ!とびっくり仰天、それから、探し探して曲名を調べ、CDを買い、スラヴァという男で女の声を出す、カウンターテナーというのだが、とんでもないいい男が歌っていることを知る。

息子や夫を戦争で失ったかあるいは失いそうな女の心をマリア様に切々と訴えているという声だ。
歌詞がない、ただ、アヴェマリア、あ~あ~というだけ。

カッチーニは16世紀の作曲家だが、実際は旧ソ連の作曲家、ウラジミール・ヴァヴィロフ(1973没)の作品と言われている。発表にあたって他の作曲家の名前を借りることをしばしばしていた人だという。その国のその時代を思えば、さもありなん。

次のアヴェマリアはいわゆる西洋音楽と言われているクラシック音楽が成立する以前のスペイン、バルセロナの近くのモンセラートへの巡礼者たちの歌っていた歌からのもの。
巡礼者たちがあまり品のよくない歌を歌っているので、修道院側から、これらを歌いなさい、と教育上与えたものである、という説明を聞いた。
どちらにしろ、古い時代の民族音楽を彷彿させるような、東洋人の心にも懐かしく思えるそのメロディーに惹かれて選んだものだ。
「モンセラートの朱い本」14世紀編集、として有名である。その10曲のうちの一つ。
日本語に翻訳して歌った。

初回のデビューの時だが、「下手でもいいから、感情をこめなさい」と先生のお言葉があったので、心を込めて、力みすぎるぐらいに、頑張って三曲を歌った。終わってホッとしたのだが、なんだか自分の中のどこかに穴が開いたような解放感があった。

今年もほかのアヴェマリアを探して歌おうと思っている。
アヴェマリアばかりを歌っているが、何となくはまっているのである。