如月のつぶやき

「ハンナ・アーレント」という映画を見た。
思想家?社会学者?哲学者?
いい映画だった。感動があった、そして考え続けている。

マルガレーテ・フォン・トロッタという監督もすごい。
彼女なくてはハンナ・アーレントの思想がこのように私たちに
知られることもなかったのだろうから。

ハンナはかの哲学者ハイデッガーの生徒であり恋人でもあった。
ハイデッガーはナチに加担する。彼女はドイツからフランス、アメリカへと逃亡
した。
「全体主義の起源」という著書で一躍思想家として認められる。
アイヒマンが捕まった時、エルサレムで裁判が行われ、その傍聴に
ニューヨーク・タイムズから派遣される。彼女のその記事から巻き起こされた
騒ぎがこの映画の取り上げた部分である。

最後の大学での講議シーンが圧巻だった。世の誹謗中傷に対する彼女の
正論だ。真理を追求するという彼女の核をみせてくれた。

悪とは何ぞや、を追求した人だと知った。
アイヒマンを裁いたあの法廷は未だかってなかった犯罪を
裁かなくてはならなかったのだ。人類への犯罪を。
アイヒマンの映像はほとんどが実写であるというのも、
我々も彼を観察することができた、ということだ。
陳腐な悪、と彼女が名づけたが、アイヒマンは小官僚に過ぎなかった、と
彼女は捉えた。
命令に従っただけだと彼は言い訳をし続けていた。

しかし人類への犯罪がなされた。ナチがドイツのみでなく世にもたらしたのは
モラルの崩壊であった。
”思考しないということ”が人間の持つ資質を放棄させた、ということだ。

恐ろしい程、今の私たちに当てはまる。
私も、あなたも、誰でも とてつもない悪を犯す危険性があるということだ。
人としての資質を放棄する時に。
思考を放棄する時に。

裁判で明らかになったユダヤ人側からのナチへの協力を記事にしたことで、ユダ
ヤ人社会から
誹謗中傷をうけ、アイヒマンを擁護してるとさえ誤解され、
友人たちの中でも絶縁するものが現れ、彼女は苦境に立たされた。

この裁判傍聴記事を公表したニューヨーク・タイムズは
しかし偉かった、と私は映画の後一晩寝てみてから気がついた。
叩かれることが分かっていながら公表したのだから。後に出版もしたのだ。
ジャーナリストとして、真実を見極め、世に知らしめるという王道を行っている。
アメリカというのはいろいろ問題ありではあるが、このあたりが素晴らしい力
だと思う。

今の日本ではこんなジャーナリズムは夢のまた夢ではないか?
世はハンナが追求し暴いた全体主義の悪の道へとひた走り始めてはいないか?

個として自立することの大切さがまたもや明らかになった。
歴史を変えるのは私たち一人ひとりの意識と行動だ、と日ごろ思っているのだが、
小さくてもいい、流れを変えるために動くのだ、と思っているのだが、
ハンナの考えを知った今 百人力を得たように私は嬉しい。