皐月の書き散らし

今の花が一番きれいだ、と感じる時がある。裏庭の桜は老木で枝もまばら、背も高く、下からだと見えるのは幹と下枝だけで、二階の物干し台からはちょうどよく花が見える。柿の木や松ノ木が少々うざったく邪魔をするのだけど、薄紅色の花は咲き始めには一つ一つが強く”私を見て!”と言ってたのに、集団になった今は、もわーっと最高の美しさになる。

息子のMがかなりの枝を切り取って世田谷のマンションに持っていった。友人たちと中目黒の川端の桜見物をしてその後自宅で宴会をする、という趣向でその場を飾ったらしい。あれから一週間たって、あの枝は切るべきではなかった、と。あれは生き物だ、切ってはいけなかったんだ。と言い出した。花びらが散るのだけれど新緑の葉が出始めたそうだ。どうやって育てたらいいんだ!と後悔している。彼の今住んでいる環境はこの辺より植物が少なくて、ウン万円もする観葉植物を買い込み、葉っぱが落ちればハラハラドキドキの暮らしで、それもやっと新芽が出るようになり一安心だとかで、こんなに植物好きだったのかとこちらは面白がっている。ペットもいないし彼女もいないしで自分で作ったショールームのような無機質的な空間に、自然の生きてる気配が必要なんだろうね。”美しくなければならない”と金言のように言いながら。

もうすでに老桜には新緑が覆い始め、紅椿の咲き残りとコラボレーションをして、全く違った美しさが今私の目の前に広がっている。あすはまた違うだろう。

桜を後ろに感じつつカフェではオープンダイアローグというメソッドの勉強会が行われ、丸一年を迎えた。これはフィンランドにおいて統合失調症治療法のために開発された革命的な手法である。これを発見し、面白い、日本に紹介しようとした斎藤学、斎藤環師弟のおかげで、文化的な革命すら可能であるというこの発想法を 今や、たくさんの人々が学んでいる。プロではない一介のおばさんである私のような者も学んで毎回新しい現象を感じている。
例えばその日の課題である数行の内容がある。それを軽く読んだ後皆のフリートークはその内容を自然に生み出すし、個人の問題点が語られていても、それが全体の問題となってきたり、一つの偶然の発言によって、その場にふさわしくない現象が、ふっと消えてしまったり、対等な関係性を壊す要素がだんだん減っている、それも自然的に、ということに驚く。学びの場自体が学びの実践になっているようだ。毎回新人さんがかなり加わるのだけれど、それがまたいい雰囲気をもたらす。初めての方が口を開くその時は、奇跡のようだ。人々の心がどういうわけか開かれていて暖い。

最初に聞いてびっくりしたのが、問題を解決しようという心を捨てなさい、だった。わからないことはそのままにしておきなさい、だ。幼い頃から我々が受けた教育は「問題は解決せねばならない」だったような気がする。

医師を交えた数人の病院スタッフと患者と患者関係の人たちとのオープンなダイアローグが、患者からの電話がかかって24時間以内に患者の家で行われ毎日スタッフが通い続ける、というのもすごい。スタッフ、つまり病院内のすべての人々が対等な関係性を持たなければならない、これが完成するまで時間がかかるそうだ。医師たちのプライドとかが問題なんだろうね。投薬なしで回復する患者さんが増え続けているそうだ。回復した患者さんに、この治療方はいかがでしたか、と聞くと、え~?これ治療だったの?僕はひとりで治ったんだよ、と答えたとか。街の大きさ、病院の大きさ、はフィンランドのその街のように可愛らしければ適切なのだろうが、日本で同じようには無理だろう。でも、これは根本思想が革命的なのだ。日本的に、というとひょっとしたら北海道、浦河町のベテルの家はすでにもう長いこと似たようなことを行ってきたのではないか、と思い当たった。「当事者研究」で知られてきている。

支配傾向のない関係性によるそこで行われる対話は、患者を治療するためではない、対話から生まれてくる、もやもやっとした何ものかが目的、であると・・・・もやもやっとした、それ、そこから各々が何かをもらっているらしい。

斎藤環さんは説明文の中で、論文に使うには希な「愛」という言葉が使われている、と驚いてらした。

このオープンダイアローグというのは単なる治療法ではない、ということを説明するまでもないのだが、学び始めて一年、私は頭の構造が入れ替わったとまでは言わないけれど、なんだか違う自分になっているのを感じている。まだほんのとば口なんだけど!

   春陰や眠る田螺の一ゆるぎ     原 石鼎

   ほりこしのぶよ

卯月の書き散らし

又話がクイーンに戻ってしまう。もう桜が咲くだろうという頃なのに、正月に「ボヘミアン・ラプソディ」を見て以来、y… もっと読む »

弥生の書き散らし

「ある葬儀屋の告白」キャレブ・ワイルド著 を読んで 葬儀屋としての日常の業務を語りながら、彼の出会う一つ一つの… もっと読む »

如月の書き散らし

大評判だと聞くとかえってそっぽを向くひねくれ者だけど、今回は行ってみようかな、という気になったのは、その映画を… もっと読む »

師走の書きちらし

焼きリンゴが美味しい季節だ。紅玉のすっぱみが火を通しての甘味とうまく調和している。ばおばぶでの冬の人気商品だ。… もっと読む »

霜月の書きちらし

我がカフェの15歳になったお祝いをしました。準備期間も楽しかったけど、当日はあたたか味というか、みなさんの醸し… もっと読む »

長月のささやき

葉月にはそのちょっと前に葉介という孫が生まれ、それと入れ替えぐらいに心臓で病院に運ばれた私がいて、命のいれかわ… もっと読む »

葉月のささやき

10月でばおばぶは15周年を迎える。6日土曜日にお祝いをする予定。 たくさんの人の笑顔が欲しいので10周年の時… もっと読む »

文月のささやき

オープンダイアローグというフィンランドで始まった心の病の治療法がある。斎藤環先生が数年前に日本に紹介された本を… もっと読む »

水無月のささやき

皐月は我が誕生日があり母の日もあり、花が美しいし、緑は勢いを増してくるしで、グーンと元気の出る月だ。今年は特に… もっと読む »