雲海が下に広がり雲の間に光が走り静かに朝日が昇ってきた。山腹に立っていたのでなんのじゃまもなく真正面の絶景を味わった。すばらしい山の一日だった。なだらかで歩きやすく美しい山だった。
高くそびえる十字架の根元に小石を置く巡礼者たち。自分のとらわれ、悪癖、肩の荷等いらぬ物を石に託して置いてくれば受け取ってくれる場所らしい。家から用意して持ってくるのが本当らしいが私はその辺の小石を拾って投げた。そしたらころころと戻ってきてしまった。あわてて又投げた。
下りは少しきつかった。山を越えたら家々の屋根の色が変わった。赤から黒へ。
モリナセカでは町外れの古いほうのアルベルゲにする。スウェーデン人の女の子二人がアルベルゲに泊まりながら仕事をしている。ここが気に入ったのでサンティアゴまでの巡礼を終わらせてから戻ってきたのだと。秋まで残るつもりだと。北欧人らしく軽やかな夏姿ではだしで掃除をしている。二人の二部合唱で夜のお休みと朝のお早うのお知らせをしてくれる。
シャワーはあいにくお湯がどんどんでなくなった。後でオーナーが修理をしていた。一階のまんなかに囲炉裏がある大きなワンルームのよう。ぐるりと階段状になっている。街で買い物をし自炊をして庭のテラスで一人で夕食。洗濯物もきれいにかわいた。
起き抜けに頭痛がしていた。食欲がない、というより水ぐらいしかのどを通らない。気持ちが悪い、息苦しい。何とか仕度をして出る、が、歩くのがひどくつらい。ゆっくりゆっくり…4km先に村… 追い抜かしてゆく人たちが心配そうに声をかけてくれるが… 杖にすがりながら、立ち止まりながら進む。胃液を吐く。もうだめだ。と思った時ルノーに乗った女の人が止まってくれた。紫色のズボンをはいていた。「大丈夫か?次の街のアルベルゲまで連れて行ってあげる」 といってくれた…救われた!涙ぐんでしまった。
ポンフェラーダのアルベルゲの前に車を止めてくれた。門が閉まっていて午後2時にならないと開かない。ベルを押しても誰も出てこない。我が紫色のエンジェルは仕事に行かねばならぬので急遽その辺を見渡し3人のおば様方を捕まえた。薄いピンクと濃いピンクと紺色の3人。彼らは私をタクシーに乗せ病院へ連れて行った。ひどく長く待たされているうちに彼らの一人が『あなたは病気か?』と聞くので『ただ疲れているのだと思う、寝ればいいと思う』と答えた。私の持病は心臓なので安静しか打つ手はない。「ではホテルを探すか?」ということになり彼らが推薦したホテルへタクシーで向かう。タクシー代は払ってくれる。ペルグリーノを助けるのは伝統らしい。四国のお遍路さんの土地柄と一緒だ。
市場の立っている広場に面したこじんまりとしたホテルだった。彼女らは市場に出かける途中でもあったのだ。部屋まで一緒に来て『お風呂もあるしバルコニーも付いているしベッドはこんなに大きくて一人で眠れるのよ」と彼らもはしゃいでいる。「二日は休みなさいね」 と言って帰っていった。私の三人のエンジェルたち、カルメン、ミリアム、アウロラ。
まず風呂に入った。日本を出て以来はじめての風呂だ。43日ぶりか。体内の血液が今動き出したかのようにゆっくりとお湯の中で身体がほぐれていった。なんという幸せ。パラダイスだ、これは!
一回目の風呂は軽く済ませて眠ることにする。たった一人の部屋だ。ぐっすりと眠った。
目を覚ましてサッパリしているのに気づく。散歩に出る。市場を回ってビオの店(ナチュラル系)も見つけタイガーバーム、フェイスクリーム、自然食品を買って帰る。ボッカディーリョを食べりんごジュースを飲みまた入浴をして髪の毛も洗い、降ってきた雨の音を聞きながら又昼寝をする。夜も又風呂に入りぐっすりと眠り朝はいつもより遅い8時半に目が覚める。出発する元気はまだないと判断しもう一日このパラダイスに留まることにする。