強い雨。
ポンチョのおかげで濡れはしないがもう風邪はいやなので予定より早めに切り上げる。コーヒーを飲みに入ったレストランに宿が付いていた。ホテルとアルベルゲ両方あったが巡礼者の私は後ろ髪惹かれる思いで質素な裏のほうへ回った。お向かいの教会で11時からミサ。ジャストタイミング。昼過ぎに雨は止んだ。何にもない村だ。次第に山の景色になっている。
一人帰り道だというイタリア人が反対方向から歩いてきた。いい顔をしている。うらやましい。
食事の質がとても良かった。魚だったが久しぶりにまともな料理という感じだった。かわいいハンガリーの人と一緒に食べた。宮崎駿、阿部公房とかが好きだと話す。ご主人が『居合い道』のヨーロッパチャンピオンらしい。「ハイキ」とか言っていたけどたぶん俳句だろうと思う。
レストランのカウンターで働いている人がオーナーだろうと思うが朝から夜遅くまで働いている。翌朝早い時間に又カウンターにいるので驚いてしまった。昼休みをとっているのだろうが。
ぐっすり眠れた。二段ベッドでないしゆったりしていたからか。折りたたみナイフがないことに気がつく。アストルガのベッドの下に落としたんだ。夜中に確か何かが落ちる音がした。フランス製のすごくいいナイフだったのに残念だ。
フォンセバドンまで16.8km。かなりきつかったので着いてすぐ近くにあるアルベルゲに入った。部屋は地下室にあった。むんむんしていておまけにじい様ばかりがぎゅうぎゅうずめで薄汚くとても入る気にならなかった。上に戻ったらカフェでワインを飲んでいる女の人がいたので聞いてみたらもう少し先にまだ他のがあると教えてくれた。 20mほど登ったところに小さい家だが人の感じがいいので、こちらにすることにした。ほっとした。ベッドを確保してさっきのをキャンセルしに戻った。
カミーノには三つの大きな山がある。最初のピレネーと此処ヒエロの十字架山と最後の難所セブレイロ。
この村は山の中腹にへばりついている廃墟のようだ。人が住んでいるとは思えないくらい家々が荒れているが夕方になると羊や牛を追うおばあさんが出てきたりしたので無人ではないとわかる。見渡す限り美しい山々、しかし牧草地になっている此処が森に覆われていたはずの昔を思う。ヨーロッパはほとんどが森に覆われていたはずだ。
なかなか沈まぬ陽、十時近くまで明るい夜、シエスタという優雅な習慣、おかげで夕食は9時とくる。しかし我々巡礼者は朝が早いので8時にしていただける。
羊が草を食むとは遠くからなら牧歌的な眺めだが近くで見ているとすさまじい勢いで地表から草をむしり取っていると分かった。その音に感じ入る。
日本でもよくいる、私も少しそうだけど、インド風アジア風のインテリアやファッションを好み自然体で生活している若い夫婦がこのアルベルゲをやっている。赤ちゃんがその辺で寝ている。毎日50人からの巡礼者を泊め食事を出し食品などを売る。この村から先は山越えをして11km行かなければ次の宿までたどり着けない。店と呼べる物は一軒もない。
此処で出してくれたパエリャは絶品でした。前菜のチーズ、サラミ、パンもすごくいいものだったしサラダもちょっとしょっぱかったけどたっぷり野菜。デンマーク人やフランス人、ドイツ人たちと一緒のテーブルで会話は弾んでいた。屋根裏部屋で普通のベッドでこれもOK. 遅くまで宴会をして騒いでいたかなり年配のドイツ人のグループがすごくうるさくていい加減にして欲しいとベッドの中でため息を付いていたのだが私が起きた6時半にはもうみんなきれいに出発していた。すごいエネルギーだ。脱帽。